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青森県内三つの森林管理署・支署が“22世紀への贈り物”として「青森ヒバ」(和名ヒノキアスナロ)林の復元に取り組んでいる。
径の太いものは近年とても少なく、市場に出回る材木全体の1%程度とも言われるが、そんな希少な木に魅了されて植樹を始めた製材・木工業者もいる。この木のどこにそんな魅力があるのか、尋ねて歩いた。
伐採されたばかりのスギ人工林にヒバの苗が次々と植えられた=2019年9月26日午後2時36分、青森県むつ市城ケ沢の国有林
60年後のスギ跡地に復元
答えは、むつ市内にある下北森林管理署を訪ね、あっさりわかった。正面入り口に飾られている神代(じんだい)木が教えてくれた。
陳列してある切り株は東通村の猿ケ森砂丘で見つかった青森ヒバの埋没林で、村教育委員会の委託調査で1120年ごろ飛砂で埋もれて枯死したものとわかった。掘り出されてから900年も経つというのに、切り口からはヒバの香りがかすかに漂う。朽ちていたのは表面から2センチほどで、製材してみると中は今でも使えるものが多かったというから驚きだ。
木材として利用される青森ヒバは樹齢200~250年のものがほとんど。60年で売り物になるスギと比べ、3倍以上もの時間をかけじっくり育つ。それだけに木目が緻密(ちみつ)で美しい。湿気に強くて腐りにくい。そして家を土台からダメにするシロアリを寄せ付けず、「理想の建材」と同署は紹介している。
ただ、天然のヒバ林は伐採が進み、1970年代で年間45万立方メートルあった供給量は近年1万立方メートルほど。約1立方メートルは直径60センチ、長さ4メートルの丸太に相当する。スギだとこれで1万円で取引されるが、青森ヒバは5倍の値がつくそうだ。
希少となったヒバだが、「いまが復元のチャンス」と県内の森林管理署はみている。ヒバの代わりに植林されたスギの人工林が60年前後となり、ちょうど伐採期を迎えているからだ。
統括する東北森林管理局では、「津軽半島と下北半島」の国有林にヒバの復元推進エリア(14万6千ヘクタール)を設定。まずは5年後までに計146ヘクタールでヒバ苗を植えたり、ヒバの稚幼樹をスギを間伐して大きくしたりしていく。
作業はすでに3年前から始まっている。下北森林管理署によると、スギの伐採地に植えたヒバの苗はこの2年で樹高が平均34%伸び、根元の径は倍となった。スギとの背比べに負けて60年もの間スギの足元でじっと耐えていたヒバの中には「この1年で20センチも伸びた木もありました」と同署の森林技術指導官、後藤昭吾さんは言う。
抗菌・消臭・防湿 チップ製品工夫 木工店経営・村口さん
青森ヒバ専門の製材・木工店「わいどの木」を営んで27年になる風間浦村の村口要太郎さん(72)は「今日はヒバで何を作ろうか」と考える自称「ヒバばか」だ。
最近の自信作は気持ちよい香りに加え、防カビ、抗菌、消臭、防湿効果が体験できる「ヒバ・チップ・ベッド」。チップに埋もれている村口さんの写真と記事が新聞で紹介され、チップ(米袋入り8キロ詰めで3千円)の注文が殺到。宅配便トラック1台分を連日発送しているという。
ヒバに魅了されるきっかけは、それまで営んでいた養豚業での経験だった。
豚舎の消臭にと、父の製材所から出るおがくずを入れたところ、ブタは病気知らず。消臭にとどまらないヒバの不思議な力のとりこになり、「養豚業はもうかっていたけれど、気づいた時には辞めていた」。
3年前からは、青森ヒバの適地を求めて初夏の北海道を回り、植樹をしながらヒバの魅力を説いて回る伝道師にもなった。
「ねぇかいでみてください。樹齢200年のヒバと300年のとじゃ香りの深みが違うんです」
今年春には、自宅を総ヒバで増築し、見学を受け入れる。床下には例のチップを敷き詰め、壁の間と天井裏にはかんなくずを詰めた断熱材を入れた。
以前は製材後、表皮や木くずなどヒバの半分がごみとして捨てられた。しかし「わいどの木」では捨てる部分がほとんどない。それでも「まだ8割しか使っていない」と、村口さんは言う。
出典:朝日新聞
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