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青森県、津軽地方独特の郷土料理「いがめんち」めどう!
一度聞いても、ん?? と聞き返してしまう、得体の知れない食べ物(発音も語尾を上げる独特の津軽弁で、最初は聞き取りづらい)だが、津軽の人はみんな好きだという。イカを「イガ」というのが津軽弁。イカのゲソ(足)と野菜を細かく刻んで小麦粉と混ぜ、焼いたり揚げたりした「イカのメンチカツのようなもの」なのだが、津軽弁でちょっとなまっていがめんち、となる。
元々は家庭料理で、イカと野菜さえ入っていれば、あとはそれほど難しい定義がない。まとめたタネも焼いたり、揚げたり、作り方はアレンジ次第で自由。青森でも主に弘前周辺で多く作られ、他ではあまり見かけない。弘前では、スーパーや市場にもよく並んでいるし、居酒屋でもかなり頻繁に登場する、人気の料理である。しかし、実はそれは最近になってのことらしく、一時期はいがめんちが世の中から消えてしまいそうな危機(?!)だったらしい。
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いがめんち復興に力を注いだ「いがめんち食べるべ会」へ!
このマークが下がっている店では、いがめんちを食べられる▼
弘前を「いがめんちの街」にしようと盛り上げた立役者のひとり、いがめんちの普及とPR活動を行っている「いがめんち食べるべ会」の萢中 勉さんにまずは話を伺ってみた。
「いがめんちの歴史については、色々調べたんだけど、自分が直接聞いた一番古い記録は、弘前に住む90歳のおばあちゃんが、おふくろから作り方を教わって、作って食べた、っていう話です。明治時代かな。資料などの記録はないんですよ。ただ大正9年に五能線(鉄道)ができて、その頃から弘前に市場ができてさ。鯵ヶ沢からイカが大量に運ばれてくるんです。それをみんな箱で買って、塩辛とか保存食を作っていた。あと昔は出稼ぎで、漁師が農家の仕事を手伝ってて、そのときに物々交換でイカや魚を持ってきたりしてたみたい。だから弘前とか高杉とか、面白い地域にいがめんちを食べる文化があるんですよ」(※実際には津軽弁で話して頂きました)
青森の日本海側である鯵ヶ沢には通称「イカ焼き通り」という通りがあり、そこでは今もイカが大量に採れる。「イカのカーテン」と呼ばれるほど、イカをずらりと道沿いに干した風景は、この地域の風物詩である(有名になったワサオ犬がいるのも、イカ焼き通りである)。この辺りでは、新鮮なイカが気軽に手に入るので、イカを日持ちさせようという発想はなく、逆にいがめんちの文化はなかった(現在は弘前の影響でこの辺りでも街おこし的にいがめんちが作られている)。
いがめんちは冷蔵庫のなかった時代、内陸の人達にとって貴重な海の幸を腐らせることなく味わうための保存食でもあったのだ。また、そもそもいがめんちに使われていたのはイカのゲソ部分。身の部分は先に別の料理で美味しく食べ、残ったゲソを捨てずに無駄なく食べ切るための工夫として考案されたともいわれる。「捨てるにはもったいない」という、生活の知恵から生まれた料理なのである。
萢中さんも子どもの頃、母親が作ってくれたいがめんちを食べて育った。大好きだったという。「自分のおふくろが作ってくれたのは、玉ねぎと細長く切ったニンジン、あとササゲが入っていた。かき揚げみたいな感じで、身がきゅっと詰まってカラッと揚がってて。色合いもすごくきれいだったのが印象に残っています。昔は田植えとか手伝って、お昼のお弁当の中に入っていたり、おやつだったり。日持ちするからねぇ。今も食べるけど、自分はシンプルな味が好きですね」
いがめんちは実際に作るとなると結構手間がかかり、揚げ物をしない家庭も増えたことから、近年はあまり作られなくなったそうだ。萢中さんはいがめんちを心から好きだったことから、いがめんち文化がなくなってほしくないという想いで、2009年に「いがめんち食べるべ会」を発足。当初は、ご当地グルメのような新しい商品をいがめんちでも開発して、自身の商売に繋がれば、という思いもあったそうだが、結果的には弘前の街の活性化に貢献することになった。
飲食店などで食べられるように地道に普及活動を行い、郷土料理としていがめんちをメニューに入れてもらえないかお願いして回った。マップを作り、会員店にはノボリなどの目印を付け、食べ歩きができるようにした。コツコツと続けた結果、テレビなどメディアの紹介もあり、今では人気が出て、現在会員となっている飲食店は20店を超えている。また、会員でなくとも、いがめんちを作る店が増えてきた。弘前の街の日常として少しずつ浸透してきたのである。
いがめんちの作り方を教えてもらう1・居酒屋編
実際にいがめんちの作り方を教えてもらおうと、弘前の飲食店を2軒訪ねた。
1軒目は、弘前の町中にある居酒屋「津軽 お日さまの味」。主に地元の素材を使って丁寧に料理が作られている。店名は、食物を育ててくれるお日様に感謝し、お日様のようにぽかぽかと温かい店にしたい、という想いを込めて名付けたそうだ。
ここのいがめんちはかなり凝った作り方で、いわゆる一般的な家庭料理とはひと味違う、プロの料理人の作る格上げされたいがめんちだった。材料にもこだわりがあり、イカはすり潰してペースト状にしたものと、プリッとした食感が残るようにたたいたものの2種類を混ぜて使っている。ペーストはモンゴウイカ、たたいたイカはスルメイカや真イカなど、季節で違うこともある。粉は小麦粉の他、片栗粉、パン粉も使う。玉ねぎ、ニンジン、ネギ、生姜、ニンニクなど野菜もたっぷり。それぞれの味わいや食感を生かして、切り方を工夫している。味付けには、友人のお母さんが作っているという手作り味噌や、店主自身で考案したオリジナルダレ「八方汁」(企業秘密)などを使う。
さっそく作り方を見せていただいた。
「うちで作るいがめんちは、実は手間のかかる料理。真面目に作ったら半日はかかるよ」と川村さん。刻んだ野菜は炒めて水分を抜き、甘みを出して風味を立たせる。味を見ながら、イカ、野菜、調味料等を混ぜ合わせる。固さを調整しつつ、粉も加える。タネはそのままだとかなり柔らかいので、一旦冷凍し、シャーベット状に解凍して、スプーンで俵形に整えて揚げる。フワフワの食感ながら、イカのコリコリ感もあり、味噌や生姜の風味が程よく効いていて、何も付けないで食べても充分に美味しい。
川村さんも地元出身で、やはり子どもの頃から自分の母親が作ってくれたいがめんちを食べていたという。それはハンバーグのように焼くタイプだった。また、北海道で働いていたとき、まかない料理で似たようなものを作って食べていたそうだ。そこではイカのハンバーグと呼ばれていて、ホタテも入っていたとか。川村さんは、そのときのレシピをベースにして、自分で一番美味しいと思うオリジナルを考案した。
店には地酒もいろんな種類があり、津軽の郷土料理や創作料理などが食べられる。メニューにはユーモアが随所に効いていて、アットホームな雰囲気がある。今度来る時は、地酒でいがめんちを合わせてみたいと思った。
いがめんちの作り方を教えてもらう2・蕎麦屋編
二軒目に訪ねたのは「自然房 万作庵」。弘前市内から少し離れた、山の中にぽつりと一軒店がある。ここ、かなり隠れ家的な場所にあるのだが、お客さんはひっきりなしに来る。自家で挽いた手打ち蕎麦がたいそう美味しくて人気なのだ。お蕎麦屋さんが作るいがめんちってどんなものなのだろう??
「まずは食べてみて」と出された一品は、見た目はまるでパウンドケーキみたいだった。作る人によってこうも違うとは! そして蕎麦粉が入っているせいか、香りがよくとても芳ばしい。
ここでの作り方のポイントは、蕎麦粉と蕎麦の実を入れること。蕎麦屋らしいいがめんちを、ということで、店主がオリジナルで考案したものだ。蕎麦粉は店で挽いた自家製のものに、蕎麦の実も一緒に入れるので、香りが立ち、カリカリの食感を楽しめる。そして味付けにはオリジナルの本返しを使っている。これも蕎麦屋らしい試みだ。イカゲソは本返しに10〜15分漬け込むことでイカの臭みが取れ、香ばしく仕上がるそうだ。
イカのすり身に細かく刻んだキャベツ、玉ねぎを加えてよく混ぜる。蕎麦の実、蕎麦粉を加えて混ぜ、空気が入らないようしっかり型に詰めて、40分ほど蒸す。まるでミートローフみたいな感じである。冷めたらケーキのように切り分け、低温で揚げる。きつね色に軽く焦げ目が付いたら出来上がり。蕎麦屋なので天ぷらなども作るが、いがめんちは別の鍋を使い、専用の油で揚げている。夜に来る常連のお客さんには、これをオーブンで焼いてみたり、パン粉をまぶしてカツのように揚げたりして提供することもあるそうだ。
ちなみに店主の我妻さん夫妻はどちらも青森出身ではない。ご主人は宮城、奥様は岡山出身だそう。宮城には「イカニンジン」というイカとニンジンの漬物のような郷土料理があるが、いがめんちはこちらに来てから知ったそうだ。オープン当初から出しているけれど、蕎麦屋らしいオリジナルを作りたい、と試行錯誤したという。今では人気商品だが、こちらもやはり作るのが大変なので、いつもあるとは限らない。また、出すとすぐに売れてしまうそうなので、食べられたらラッキーである。
取材した上記2店は、どちらも店主がオリジナルにこだわり、素材等を吟味し、かなり手をかけて作っていることがわかった。また弘前出身であってもなくても、いがめんちに対して愛情を持ち、郷土の料理への想いを込めて作っている。
いがめんちを作っている総菜店を訪ねる
総菜店でもいがめんちは手に入る。弘前駅から程近い「虹のマート」へ行ってみた。スーパーマーケットのような名前だが、中へ入ると市場のような独特の雰囲気で、鮮魚、乾物、総菜店などがひしめいている。総菜店はみんな店の奥が厨房になっており、その場で作ったお惣菜を提供している。いくつかの店でいがめんちを出しており、そのうちの1店「わしお」で購入してみた。ここでは週に2回くらい、いがめんちを作っている。イカ、ニンジン、玉ねぎのみのシンプルないがめんち。ごろんとやや肉厚で、ちょっと懐かしい素朴な味わい。イカは足とミミだけを使うそうだ。
弘前の中心地、土手町にある「弘前中央食品市場」にも行ってみた。ここも野菜や総菜が売られており、鰻の寝床のような京都の長屋風の細長い建物である。山田商店は秋から冬の間だけ売っている大学芋が人気の店だが、ここにもいがめんちがある。午前中に行くと、店の中でちょうど揚げているところで、揚げたてを食べられる。匂いにつられて、つい買ってしまいそうだ。
ここもシンプルないがめんちで、キャベツ、玉ねぎ、ニンジン、ネギが材料。イカはゲソのみを使う。さつま揚げのような平べったいかたちで、食べ歩きもしやすい。元々は市場内の別の店で作っていたそうだが、そこが辞めるとき、山田商店が引き継いでいがめんちを作り続けた。「だからウチはまだ、10年くらいなのよ」と山田さんが話してくれた。
総菜店のものは飲食店と違い、素材もシンプルで、昔ながらの素朴なお母さんの味といった風情のものが多かった。部活帰りの中学生が好みそうなお惣菜である。ひとつ買ってその場でぱくっと食べたくなる。
いろいろないがめんちを食べ比べ!
その他にも、各所で様々ないがめんちを食べた。どこも全く違ってバラエティに富んでいるのが面白い。イカと野菜さえ入っていれば、あとは他に何を混ぜても自由だし、かたちもいろいろ。揚げても焼いてもよい。各店が美味しいと思うものを追求し、自分達らしいいがめんちを創意工夫している。
粉が少なく、さっくり揚げたかき揚げのようなものもあれば、身が多めでハンバーグみたいなものもある。だし汁、あんかけ、タルタルソース、チリソースなど、かけるものもさまざま。ホテルの朝食に出てきたこともあったが、やはりよく食べられているのは居酒屋が多いようだ。酒のつまみにいいのだろう。ビールはもちろん、日本酒にも合う。
北海道や伊豆、九州など他の地域にも似たような料理はあるそうで、イカ以外に魚のすり身やホタテなども入っている。しかし津軽ではストイックにイカだけで、他の魚介は入れない。そのほうが美味しいと津軽人は主張する。青森はイカの素材自体も品質が高く、ふっくらと柔らかくておいしい。イカといえば函館が有名だが、どちらも漁場は津軽海峡なので、採っているイカは同じなのである。
もし東京でいがめんちを食べたいなら、新宿区荒木町に青森の郷土料理を出す居酒屋「りんごの花」がある。シェフを務める小池政晴さんは青森出身ではないが、仕事で何度か訪れるうちに青森の魅力に惹かれ、青森を応援する店をオープンしてしまった。小池さんの作るいがめんちは小麦粉よりもイカが少し多め。ゲソの歯ごたえを効かせつつ、モチモチふわっふわの食感がおいしい。彩りでニンジンも入っている。店には青森出身のお客さんが地元の料理を懐かしんで来ることも多いようだ。
いがめんち食べるべ会の萢中さんいわく「いがめんちの面白さは多様性と可能性」とのこと。各飲食店が独自で自由に作り方を考え、新しい発想でじわじわとバリエーションを増やしている。工夫次第でまだまだ今後も開発の余地はありそうだ。わーっと大々的に流行るものではないが、地味でありつつ地元の人達にしっかりと愛され、静かに定着している郷土料理である。
【津軽 お日さまの味】
青森県弘前市土手町189 コーポラスエクレールSHIMADA1F
0172-33-9133
http://kamidote.jp/ohisama/【自然房 万作庵】
青森県弘前市大字水木在家字桜井113-9
0172-84-3622
http://mansakuan.com/【りんごの花】
東京都新宿区荒木町11-24荒木町エーシー ビル1F
03-6380-6724
http://www.ringonohana.com/
(写真・文/江澤香織)
食、旅、クラフト等を中心に活動。著書『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり』(マイナビ)、『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド社)等。酒蔵めぐりをメインとしたツアーやイベント「だめにんげん祭り」主宰。最近は日本海側、発酵食品、イカなどに興味あり。
津軽のイガメンチは美味いですよ。もともと青森の「スルメいか」
の刺身は新鮮でとにかくうまい。その旨いイカを細かくたたいて
ハンバーグのようなイメージですがその「メンチ」を揚げて作る
のが「イガメンチ」です。お酒のお供にも最高!です。
バリエーションは多くありますが、どれをとってもうまい!
あなたが作ってもうまいはず。まちがいない!
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