青森県の「平均寿命を伸ばし」全世界の健康づくりにも貢献=「村下公一・弘前大学COI副拠点長」に聞く

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青森県の平均寿命を伸ばし、全世界の健康づくりにも貢献‐村下公一・弘前大学COI副拠点長に聞く◆Vol.2

2020年2月28日 m3.com地域版

青森県弘前市の中の人口1万人ほどの岩木地区で行っている「超多項目健診」によって得られたビッグデータを解析し、その効果を全国、そして全世界へ広げていこうとしているのが、弘前大学COI(センター・オブ・イノベーション)のプロジェクト。その戦略統括担当の副拠点長・村下公一氏に、短命地域と長寿地域のデータの比較によって得られること、青森県の「健やか力推進センター」の事業、生活の質を高められるような啓発活動などについて話を聞いた。(2019年12月19日インタビュー、計2回連載の2回目)

第1回はこちら


――さまざまな企業や機関との共同研究や取り組みを実現していますが、他地域との連携に関してはいかがですか?

 全国の大学のデータを統合する取り組みも進めています。青森県は日本一の短命県ですが、京都の京丹後地域は人口当たりの百寿者の割合が全国平均の3倍という長寿地域。そうした地域性を持つ京都府立医科大学や、やはり長寿県で知られる沖縄県の名護にある名桜大学とは同じフォーマットで連携しています。沖縄では「やんばるプロジェクト」という健診調査を行いました。長寿と短命の地域を比較すると、社会参加の割合や、運動、睡眠など、見事に差が出ました。

 政府も予防が大事だということを強く言い始めていますが、健康のためのモデルを作るには、医療の世界の多様なステークホルダーをみんなつなげた、ひとつの仕組みが必要です。これを青森県において作っていくことにチャレンジしているわけです。

――青森県内ではどのような取り組みがなされていますか。

 県内の40市町村すべてで健康宣言をしていただきました。企業に関しても県独自の認定制度を作って、従業員の健康管理を経営課題とする健康経営の企業を200社まで伸ばしたり、小中学校で健康教育を展開したりと、脱・短命県に向けて取り組んでいます。

(本人提供)

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 青森県医師会は「健やか力推進センター」という社会実装中核組織を作り、研究データ成果を実際のフィールドで実証してそれをまた研究に戻す、「アクションリサーチ」というサイクルを実践しています。人と人とのつながりが健康に影響するという考え方のもと、住民の健康増進を担う「健幸増進リーダー」を育成していっています。長寿の長野県では、保健補導員という人たちを長い歴史の中で育てて普及していったということです。青森県でも、現代に即した形でこういった人たちを地域・職域にどんどん増やして、人から人へ、健康のことをきちんと教え合えるような風土・文化を作りたい。半年の教育プログラムを要する「健幸リーダー」と、幅広くみんながなれる「健やか隊員」、こうした仕組みで人材を育成して、全県的に取り組んでいきたいと考えています。

 今、ヘルスリテラシーが大事だということが世界的なトレンドになってきています。
 イオンが全国に広めているモールウオーキング。大きいモールだと、一周約1㎞から2㎞で、それを歩くとポイントがもらえるというインセンティブがあり、定期的に健康チェックの会やウオーキングレッスンを行ったり、その人にあった商品をレコメンドするなど、よく考えられた仕組みが構築されています。実はこのプロジェクトは青森発の取り組みで、それが全国200カ所ものイオンモールに広まった。参加した人は健康になり、イオンは売り上げも伸びているのです。

――新たな取り組みとしてスタートした「QOL健診」とはどのようなものですか。

 人が健康行動を起こすときに重視するのは、やはり自身の体の変化の自覚。行動変化のきっかけとして、健康診断という場は非常に重要です。病気か病気じゃないかを判断するだけではなく、病気のかなり手前の段階で本人のQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を高めてあげられるような、気付きを与える健康チェックのプログラムがあればいい。そこで考えたのがQOL健診というものです。

 一般的な健診は主にメタボの項目ですが、それにプラスして、口腔の健康、身体機能・ロコモ、鬱認知・メンタル、以上4つの重要なカテゴリーを検査して、2時間程度で結果が出ます。企業が開発した最新のテクノロジーを組み合わせることで、その場で簡易に結果が分かる。それを見ながら本人に意味を理解させて納得させて最終的に行動が変わるところまで徹底してフォローする。そういう新しい仕組みです。包括的で即時的、かつ啓発的であるというのが特徴です。

 半年ほどトライアルを行った結果、Hb(ヘモグロビン)A1cや内臓脂肪の数値が有意に下がったり、意識の面でも野菜を多く取る、運動する、歯磨きの習慣などについて良い結果が出ました。これはエビデンスの強化も受けて、かなり大規模な実証活動をしています。この成果をひとつのモデルにして、青森県に住んでいると自然と健康になれるような社会インフラや制度、仕組み作りを進めていきたいです。

 前回の厚生労働省の発表で、男性の寿命の延び率が青森県は上から3番目でした。これを継続的にやることによって、さらに良い結果につながるのではないかと期待しています。健康寿命を延ばすのはもちろん、医療費の削減効果や新規雇用、新しい産業を生み出すという形で、地域に対して経済的にもメリットを生み出すでしょう。
 最終的にはSDGs(「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」)への貢献。健康以外のことも含めて、世界へ貢献をしていくことを目指しています。

――前回お聞きした、岩木地区で行っている健診のビッグデータと、こちらのQOL健診は種類が違うのですね。

 QOL健診は普及モデルとして開発したものです。2000項目の方は300人の医療スタッフで行っている検査で、研究の拠点です。たとえこれだけの体制を作っても、それだけではだめで、受け入れて協力してくれる住民の方がいて初めて成立するモデル。中路先生が長い間かけて住民との信頼関係、われわれと住民の皆さんとの信頼基盤を築き上げたから、われわれも皆さんの健康作りに貢献するし、そういう関係性の中で成立していると理解しています。

(本人提供)
――弘前大学COIの将来の展望をお聞かせください。

 まず青森県が全国最下位の平均寿命から抜け出すということが大きな目的ですが、そこでとどまるのではなく、そこで培ったノウハウをモデル化して、同じような課題を抱えている途上国の健康作りに貢献することです。彼らは病気になっても、経済的に豊かになってきているとはいえ、まだまだ病院に行けずに命を落とす人も多くいる。病気にならないようにするためにこうすればいいんだよということを広めていって、世界の健康作りにも貢献していきたいというのが、私たちの思いです。

村下公一氏(本人提供)
◆村下 公一(むらした・こういち)氏

青森県庁、ソニー(マーケティング部門)、東京大学フェロー等を経て2014年より、弘前大学教授。弘前大学では、COI(センター・オブ・イノベーション)研究推進機構(医学研究科)・機構長補佐/COI副拠点長(戦略統括)、弘前大学健康未来イノベーションセンター・企画戦略部門長、医学部・学部長講師(社会医学講座)を併任。2019年には、内閣府「第1回日本オープンイノベーション大賞」内閣総理大臣賞(最高賞)を受賞。同年、第7回「プラチナ大賞」総務大臣賞(最高賞)も受賞。講演やTVの健康番組のコメンテーターなど幅広く活動中。

【取材・文:三浦 秋彦】

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出典:m3.COM

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